昨日のブログの続きです。アポキル錠(一般名オクラシチニブ)の薬理薬効に関して少し記します。ご興味がある方だけ読んでください。オクラシチニブはヤヌスキナーゼ(JAKと略します)阻害剤です。JAKは細胞質型(細胞膜を貫通していない)チロジンキナーゼです。細胞膜表面に存在する受容体にリガンドが結合すると、受容体タンパク質の細胞内ドメインと会合しているJAKが活性化し、受容体のチロシンのリン酸化を行います。受容体のリン酸化チロシン残基がSTAT分子のSH2ドメインとの結合部位となります。その後、STATはリン酸化によって転写活性化を引き起こし、種々の生物活性の発現につながります(STAT: Signal Transducers and Activator of Transcription)。なお、JAKはターゲットが2種類(レセプターとSTAT)あるため二面神ヤヌス(ローマ神話)の名前をつけられています(下図参照)。JAK-STATは、EGFレセプターなどの膜貫通型チロシンキナーゼに比べて、ピンポイントで転写の活性化に結びつく効率のよいシステムですね。オクラシチニブはかゆみのシグナル伝達に特に重要なインターロイキン31を低濃度で阻害します。その他、インターロイキン2(T細胞の増殖・活性化、B細胞の増殖と抗体産生能の増強)、インターロイキン4(B細胞刺激によるIgMからIgEおよびIgG1へのクラススイッチ) インターロイキン6(B細胞の分化)なども抑制します。なお、インターロイキン6は院長の大先輩の岸本忠三先生(元大阪大学総長、大阪大学名誉教授)が発見したサイトカインです。これらはいずれも、犬アトピー性皮膚の症状悪化と関連したサイトカインだそうです。オクラシチニブは同じ、JAK-STAT の経路で情報伝達が行われる、JAK1非依存性サイトカインである、エリスロポエチンや顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)に対しての阻害作用はほとんど認められません。確かに、オクラシチニブ投薬後、貧血や、白血球減少が起こると困りますよね。以下注意事項ですが、アポキルは一種の免疫抑制剤ですので、それなりに副作用もありそうです。決して魔法の薬ではありません。経験のある獣医師の指示の下ご使用下さい。

 

 

 

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